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月の光の中で ナターリア・ビノグラードバ(女16歳)

月の光の中で ナターリア・ビノグラードバ(女16歳)
 第三中等学校10年生 ルニンツァ町

 8歳の私には、私たちを襲った不幸を完全には理解できなかった。

 事故について初めて知ったのは、2日たってからだった。そのときはそんなに恐ろしくもなく、自分たちの国ではなくて、ほかの国の出来事だと思った。私たちはチェルノブイリ原発がすぐ隣にあるとは思ってもいなかった。

 日を追って、テレビやラジオで不安な情報がどんどん入ってきたが、もっと多かったのはいろいろな噂だった。私の幼い心に初めて恐怖が生じたのは、母がある時仕事から帰ってきて、どうやら町から避難させられるらしいと泣きながら話したときだった。

 私は、まだその意味がよく分からなかったが、母が泣くのは何か怖いことがおこったということを意味していた。その時に私の心配のない幼児期は終わった。土の上に座ること、はだして草地を歩くこと、畑でそのままイチゴを食べること、日光浴をすることは、すべてしてはいけないことになった。毎日、禁止事項が増えていった。

 私はよく病気をするようになった。以前は「悪い」血液の病気や甲状腺肥大といった病名を聞いたことがなかった。しかし、統計報告には、私たちの町の住民の健康状態に異常はなく、心配されるようなことは何ひとつないと、全く事実と違うことが書いてあった。最近では、診療所に行けば、患者が増えていることが一目でわかる。単純な風邪もひどくなりやすく、死亡にいたることが度々起こるようになった。

 毎年夏がくると、家庭で大きな問題になるのは、子どもたちをどこで療養させるかということである。最初のころは、出かけるのがうれしかったが、だんだんいやになってきた。家にいたくてたまらない。誰かにしばられ、急いでどこかに行くこともない。決められた時間になると食堂に走り、与えられるものだけを食べ、すべて日程表どおりに行動する。こんなのはいやだ。ここはこんなに美しい町ではないか。静かで、平和だ。そばには、すばらしい森、プリピャチ川、すばらしいベーロエ湖がある。よい休暇を過ごすためにはまだ何が必要だというのか。ところが、すぐ目の前には、汚染ゾーンがある。

 1991年9月、学校が、ドイツに私を送ってくれた。私はそこに27日間滞在した。たくさんのものを見、たくさんのことを知った。バルチック海と、小さな町ヘリングスドルフで休暇を過ごした。この町は美しく、清潔な町だった。私たちは泳いだり、日光浴を楽しんだり、遠足にもでかけた。私たちのグループはこの町の小学校を訪れ、そこでドイツの教育システムについて興味深いことをたくさん知った。しかし何よりも思い出に残っているのは、星を見に行ったときのことだ。小さな天文台には天体望遠鏡があり、それで月を観察した。そして初めて、写真ではなく自分の目で、間近に人工衛星を見た。

 もちろん、この旅行は私にとって、忘れがたいものとなった。私はつい最近まで敵だった人々の生活や文化を知った。私の祖母は、ドイツの強制収容所の捕虜だったのである。祖母は無理矢理ドイツにつれてこられたのだが、私はそこに休暇をとり、療養に行く。なんと矛盾したことだ。私とおなじように星を見るのが好きないい人たちが、私を受け入れてくれた。彼らは私たちのこと、私たちの健康を非常に心配してくれた。すべてがすばらしかった。しかし、わたしの故郷の町のほうが楽に息ができる。たとえ放射能で空気が汚染されていても。

 私たちが不幸にみまわれたことを知ったあのいまわしい時から、8年がたった。時は最良の医者であり、苦痛は少し和らいだ。親たちから教えられた禁止事項を、少しずつ忘れようとしている。だが、私には忘れられない写真がある。全員が立ち退いた村だ。家の窓は破れていた。一人ぼっちのコウノトリだけは、自分の巣を離れられない。そのすぐそばには、「居住禁止」の立て札が立っていた。私は泣いた。時間が止まったように感じた。むしょうにさけびたかった。「チェルノブイリよ。お前は何ということをしたのだ」と。

 神様。私たちに大きな苦痛をもたらしたチェルノブイリの悲劇が、再びおこらないようお願いします。太陽が輝きますように。どんな禁止事項も知らないで、子どもたちがほほ笑みますように。お母さんたちが、もうこれ以上、嘆かなくていいように。

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子供たちのチェルノブイリ

Author:子供たちのチェルノブイリ
昔、こどもたちのチェルノブイリの作文集を選ぶボランティアをしました。この時の衝撃は今も心に残っています。
 連絡先
 ohanamoon@gmail.comまで

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